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男性の仕事と介護の両立

コラム

男性の仕事と介護の両立

労働政策研究・研修機構(JILPT)主任研究員 池田心豪

平成28年度取材

男性介護者の増加と企業経営

近年、仕事と介護の両立に対する企業の関心が高まりつつある。東京都が2014年に実施した「仕事と介護の両立に関する調査」においても、約1割の企業がこの問題を「重要な経営課題」として認識し、「やや重要」まで含めると54.6%が経営課題として関心をもっていることが明らかになっている。こうした問題意識が企業に広がっているその背景に男性介護者の増加がある。

育児・介護休業法が制定されたのは1995年、20年以上前のことだが、当時は介護といえばもっぱら女性の問題という認識であった。しかしながら、核家族化や非婚率の増加といった家族規模の縮小を背景に、近年は妻を介護する夫、親を介護する息子といった男性の介護者が目立ち始めている。男性介護者の中には正社員として長期勤続し、経験とキャリアを重ねたベテラン社員も多く、管理職も含まれる。そういった人でさえ介護のために離職をせざるを得ないケースが出てきており、経営に与える影響は大きいという危機感を企業は強めている。

もちろん女性にも男性と同様のキャリアを築いている正社員はいる。また、今後正社員としてキャリアを継続する女性が増え、管理職になる女性が増えていけば、介護離職が経営に及ぼす影響は男女にかかわらず大きくなるだろう。しかし、介護が仕事に及ぼす影響は男女同じとは限らない。正社員という意味で仕事上の役割が同じであっても、また主介護者という意味で介護役割が同じであっても仕事と介護の両立をどのように図るか、どのような両立の困難が生じるかといった問題の表れ方には男女差がある。労働政策研究・研修機構において筆者が実施した調査データから、この点を解説する。

 

男女で異なる離職・休暇取得行動

仕事と介護の両立困難の典型である離職の問題から取り上げよう。図1は介護発生時の勤務先を介護終了まで勤め続けた割合(同一就業継続割合)を介護発生時の介護役割別に示している。ほかに介護を担う家族がおらず「一人で介護」をしている単身介護者の場合、同一就業継続割合は男女差なく低い。だが、家族と「介護を分担」している場合は自分が主介護者であっても男性は女性よりも介護発生当時の仕事を続ける割合が高い。男性介護者には主たる家計維持者も多く含まれている。そのために仕事を辞められないという事情もあるだろう。一方、女性の主介護者においては「一人で介護」と「家族と分担」の間に同一就業継続割合の差がほとんどなく、「家族と分担」していてもそれほど介護負担は軽くなっていない様子がうかがえる。その意味で、男女がともに介護を担う状況においても「男性は仕事、女性は家庭」という偏りをデータから読み取ることができる。

仕事を続けている正社員においても男女の違いはみられる。図表2は調査時に介護をしていた正社員が過去1年間に介護のために休んだ日数を男女別に表している。下段の女性は「主介護者」である場合、「その他」の介護者に比べて「0日」の割合が低く、「1-7日」「8-14日」「15-31日」の休暇取得割合が高い。介護休業の取得期間に相当する「32-93日」(つまり1~3か月)休む割合も「その他」は0%に対して「主介護者」は1.9%ある。だが、男性の場合は「主介護者」と「その他」の間に明らかな差はみられない。主介護者としての介護責任を負いつつもなるべく仕事は休まずに両立を図ろうとする姿勢がうかがえる。

 

介護者のプレゼンティーズム 

だが、このことから女性より男性の方が仕事と介護を両立できていると考えるのは早計である。従来の仕事と介護の両立に関する議論では問題にされてこなかった両立困難が男性においては顕著にみられるからである。

これまでの仕事と介護の両立支援は、介護のために仕事を辞める、あるいは仕事を休むといった形で職場を離れることを問題にしてきた。今年1月から施行されている改正育児・介護休業法は、介護休業を3回まで分割取得できるようにし、介護休暇は半日単位に柔軟化した。さらに、介護のための勤務時間短縮等の措置が3年に拡大され、介護のための所定外労働免除が新設された。これらはいずれも仕事と介護の時間的な調整を可能にし、労働日や勤務時間中の介護に対応しやすくするための制度である。

だが、休暇・休業や勤務時間の調整が必要ない状況で生じる介護負担から、仕事との両立が困難になるという問題にも目を向ける必要がある。典型は深夜の時間帯の介護である。要介護者が認知症のために生活が昼夜逆転しているような場合、日中に朝から夕方まで勤務して帰宅した後、深夜まで介護をし、朝また起きて寝不足の状態で出勤する。このような生活サイクルになりがちである。この場合、介護と仕事の時間調整は必要なく、通常どおりに出勤できる。しかし、介護の疲労は蓄積していく。結果として、出勤はしているが心身の不調によって思うように働けないという事態になる可能性が高い。たとえば、睡眠不足が重なれば仕事中につい居眠りをしてしまうということになる。それだけでも問題ないとはいえないが、仕事に集中できないことから重大な過失や事故、つまり労災を引き起こす可能性も危惧される。実際、筆者はある企業において作業車の居眠り運転で事故を起こしてしまったというエピソードを聞いたことがある。原因は深夜介護であったという。このように出勤はしているが、体調不良によってきちんと仕事ができないことをプレゼンティーズム(presenteeism)という。

そして、こうした問題は特に男性において注意が必要である。図表3は重大な過失や事故を起こしそうになったことがある「ヒヤリ・ハット」経験割合を介護疲労の有無別に示している。男女ともに介護疲労がある場合はヒヤリ・ハットを「たびたび」もしくは「たまに」経験する割合が高い。だが、女性よりも男性の方がその傾向は顕著である。だが、プレゼンティーズムは出勤しているがゆえに休暇取得に比べて会社の人事が兆候に気づきにくい。従業員の休暇取得日数や欠勤、遅刻、早退が急に増えた場合には、介護に限らず何かしら好ましくない変化の兆候と見て、上司や人事担当者が面談をしているという企業がよくある。それ自体はよい取組みであるが、ストレスチェックや産業医との面談といった機会を利用して労働時間に表れない介護者の健康状態にも目を向けることが重要であるといえる。特に男性は女性に比べて仕事を休まない傾向にある。それだけに体調不良にともなう仕事の能率低下や労災のリスクが見過ごされてしまう可能性に留意する必要がある。

 

男性の介護から見えてくる両立支援の課題

みてきたように男性は女性に比べて仕事を辞める割合が低い。しかし、介護疲労による仕事の能率低下は男性の方が顕著である。その意味で、男性と女性では仕事と介護の両立困難の表れ方に違いがある。

女性を念頭においたこれまでの両立支援は、先行して整備してきた育児支援の類推で介護にも対応してきた。家族的責任による離職を問題にし、これを防止する両立支援として長期の休業や休暇、短時間勤務、所定外労働免除といった制度を整備するという考え方は育児支援に由来する。その基本的な問題意識は仕事と家庭生活の時間調整にあり、両立支援に対する企業の負担感も休暇・休業や勤務時間短縮による欠員を問題にしてきた。しかし、仕事の責任感が強く、「仕事を休めない」と強く思っている男性に目を向けることで、出勤はしているが仕事はできていないという問題が見えてくる。これは育児では議論されていない介護に固有の問題である。そして、同じことは男性だけでなく、女性にも生じていることをデータは示唆している。

このように男性の介護に着目することで、女性の育児からの類推では見えてこない仕事と介護の両立支援の課題が見えてくる。男女の違いに着目することで男女共通の今後さらに新たな課題が見えてくるかもしれない。そのような問題意識をもって、企業はステレオタイプに陥ることなく、介護を担う従業員の実情をしっかりと把握することが重要である。

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